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皆様、メニューの価格設定はどの様な基準で決めているでしょうか?

客単の設定は、欲しい「売上金額」を想定延べ「来店客数」で割った価格にしていると思いますが、個々のメニュー金額を決めるのは悩ましいですよね。

ここでは行動心理学を利用したハックを何例か紹介します。

 

松竹梅の法則を利用する

居酒屋のコースメニューなどで良く見る、広く知れ渡っている手法です。

分かってはいるけれど、やっぱり真ん中の「竹」を選んでしまいますよね。

この行動は、2つの人間の習性が絡んでいます。

 
1.品質は価格に比例すると考えてしまう習性

2.人間は物事を絶対的な基準で決めることが出来ない習性

 
順番に見ていきましょう。

品質は価格に比例すると考えてしまう習性

影響力の武器に紹介されている例です。

アメリカはアリゾナ州で観光客相手に宝石を売っている店での出来事です。

お店は繁盛しているのだけれど、値段の割に質の高いトルコ石がなぜか売れないのです。
色々施策したけれど結局売れないので、店主は値引きして売り払ってしまおうと考えました。

ある日、店主は、従業員宛に「トルコ石の値段を1/2にするように」とのメモ書きを残し、買い付けにでかけました。

数日後、戻ってきた店主はトルコ石が全て売れているのを見て満足しましたが、従業員に話を聞くと驚きました。
なんと従業員は1/2の値段ではなく2倍の値付けをしていたのです(店主の字が汚かったとの事です)。

影響力の武器の著者は、「高価なものは品質が良い」という心理現象が働いたと説明しています。

つまり、松竹梅のメニューは、松 > 竹 > 梅 の順で品質が良いと無意識に考え、値段の高いメニューの方向へ補正が働くのです。

「松が一番品質が良いけど、ちょっと高いから竹にしておこう。一番品質が低い梅は避けたいしな」

ほとんどの人間が、こんな感じの思考で竹を選んでいると考えられます。

中には「常に一番高いメニューじゃないと嫌だ」というセレブな方もいらっしゃいますが、数は少ないですよね。

また、トルコ石の事例からは、安易な値下げを行うと品質が低く見られ、逆に売上が落ちてしまう可能性もある という事実も読み取れます。

価格付けは弱気にいかず、適切な値付けを心がけましょう。

人間は物事を絶対的な基準で決めることが出来ない習性

人間は物事を絶対的な基準で決めることをしない という事実があります。

消費者側は、その商品価値の判断基準を全く持っていないので、相対的な判断で決めるしかないからです。

例えば、知らない土地の4LDKの家賃にどれだけの価値があるかは全く分からないと思いますが、同じ土地の3LDKの家賃よりは高いだろうと予想できると思います。

つまり、判断基準がないと正しい判断が出来ないため、人間は常に他と比べて判断しているのです。

例えば、以下の様な3つのコースがあったとします。

 

Aコース: 8,000円  前菜 + スープ + 魚 + 肉 + デザート
Bコース: 5,000円  前菜 + 魚 + 肉
Cコース: 3,000円  前菜 + 肉

 
Cコースで 前菜 + 肉 の価格が提示されているから、A、Bコースの価値の妥当性が判断できるのです。

尚、コースが2つの場合は、単純に安い方が選択される可能性が高くなるので注意してください。

さて、ここで質問です。

もしコースが1つだった場合、消費者は何と比べて価値を判断すると思いますか?

答えは、ご想像通り、他店の似たようなコースメニューと比べて判断します。

資本の大きな他店と比べられる可能性もあり、非常に怖いですよね。

つまり、2つ、ないしは3つの選択肢を提示することで、他店という比較対象から目をそらす効果もあるのです。

スターバックスは、人間が無意識に比較し判断する習性を良く理解していて、

ドリンクのサイズの呼び方や、メニューの名前、店内の作りを独特なものにし、他コーヒー店と比較される事を避けています。

だから強気の価格設定が出来るのです。

スターバックスの事例を応用して、メニューや店の雰囲気を独特なものにすることで、強気の価格設定が出来るかもしれないですね。

 

話がそれました。

松竹梅コースを設定する際に、注意する点があります。

それは、上に提示したコースメニューの様に、比較しやすいメニュー構成になっている事が大事です。

例えばこんなメニューがあったとします。

 

A. デジタルパーマ 12,000円
B. ヘナカラー: 7,000円
C. デザインカラー: 5,000円

 
狙いとしては B のヘナカラーを選んで欲しい為に、「デジタルパーマ」をメニューに載せました。

どうでしょうか?
この場合、B の選択肢と比較できる対象が C しか無いため、B は逆に割高に感じないでしょうか?
事実上、二者択一になってしまっている為、相対価格が低くお得感の有る C が選ばれやすくなってしまうのは想像に難くないでしょう。

松竹梅戦略の注意点

松竹梅コースを作る場合は、以下点に注意してください。

・適正な価格設定
おとりメニューだからと「松」メニューの内容を値段不相応のものにしない。
一定数、一番高い価格のメニューを選択するお客様は存在します。

・比較しやすいメニュー内容
構成の一部が被った内容にする、同ジャンルで構成するなど、比較しやすい内容にする。

・選択肢を増やしすぎない
選択肢の数が増えすぎると、逆にどれも選んでもらえないという現象が起こります。
これは、「選択」という行動が「疲れる」からで、選択肢が多すぎると選ぶことを放棄してしまうからです。
この行動に関して有名なジャムの実験があるのですが、詳細はまた別の機会に延べます。
選択肢の数は、松竹梅の3つが適切です。

 
さて、この松竹梅戦略ですが、メニューの値上げをしたい場合にも利用できます。
今のサービス内容を「梅」として、竹、松のメニューを新設します。
値上げ設定したい値段を「竹」に設定するのはお分かりですよね。

因みに、この様に、より上位のものの購入に導くことをアップセルと呼びます。

相対比較を利用する

客単価を上げるために、松竹梅戦略を取ろうとすると、現行メニューに加え新たに2種類のメニューを作る必要があります。

価格相当の新メニューを2つも作るのは大変だ、と云う場合は「人間は絶対比較は行わず、相対比較を行う」という法則を用いて、以下の様なメニュー構成にする事もできます。

A. デジタルパーマ                  15,000円
B. デザインカラー + デジタルパーマ  15,000円
C. デザインカラー                   5,000円

Aのデジタルパーマは少し割高に設定しておきます。

この様にメニューを提示すると、Bを選択する人が多くなります。

何故なのでしょうか?

予想通りに不合理という書籍に、以下の事例が紹介されています。

エコノミストという雑誌の購読メニュー
A.ウェブ版の購読           59USドル
B.印刷版の購読            125USドル
C.印刷版 + ウェブ版の購読  125USドル

この選択肢をMITの学生に選ばせた所、Cの選択肢が一番多く、Bを選んだ学生はいなかったとの事です。
これは、「印刷版」よりも「印刷版+ウェブ版」が得だと感じる人が多かったためです。

次に、「印刷版」の選択肢を外し、「ウェブ版」と「印刷版+ウェブ版」の2択を同様にMITの学生に選ばせたところ、「ウェブ版」の選択肢が一番多くなったとのことです。
「印刷版+ウェブ版」と比べ、「ウェブ版」の方が安い(=お得)に見えるからですね。

話が逸れますが、この価格設定は、日経電子の版でも導入されています。
日経は時代の流れで電子版を提供したものの、紙面の発行は絶対に継続したい為、エコノミスト誌のケースと同様購読メニューを提示しています。
実際、電子版の提供は、紙面の発行数に悪影響を及ぼしていないとの事です。

この様に、人間は常に物の価値を相対的に判断しています。
逆に、相対的に判断しにくいものは、選択対象から除外してしまう習性もあります。

松竹梅の時に悪例として上げた例ですが、

A. デジタルパーマ 12,000円
B. ヘナカラー: 7,000円
C. デザインカラー: 5,000円

この選択肢だとAの価格の妥当性が分からないため、無意識のうちに選択肢から除外してしまします。

選んでほしくないメニューならば、この様に比較対象が無い状態で提示し、選んで欲しいメニューはしっかりと比較対象(おとりメニュー)を用意しておくことが大事です。

参考書籍