2018年6月5日、DMM.comグループが、クルマの写真をスマホで撮るだけで査定&売却ができる DMM AUTO というサービスを開始した。
DMM.com があの買い取りアプリ「CASH」を買収したというニュースは記憶に新しい。
メルカリにぶつけるサービスを立ち上げるのだろう程度に考えていたのだが、想像の上を行くサービス展開にすっかり意表を付かれた。
DMM.comに車売買のノウハウはあるのか?
ニュース記事を読むと、自称識者達が、売買のノウハウ、特に値付けのノウハウが有るのか批評する記事が目に付く。
しかし、DMM AUTO のビジネスモデルには、大したノウハウは必要ないのである。
というのも、DMM AUTO の販売チャネルは、明らかにオークションだからである。
CASHを買収してからサービス開始までの約半年間、DMM AUTO はオークションでの売買データをひたすら蓄積していたはずだ。
買い取りの際には、その蓄積された統計データを使い、マージンを乗せ ”機会的に” 値付けを行うだけなのである。
余談だが、統計データという言葉からは「機械学習」が連想できる。
実際、オークションの売買データを教師データとし、買い取り価格を決定する流れは、機械学習にうってつけだ。
発表こそしていないが、当然 DMM AUTO は、機械学習の運用試験も行っているだろう。
話を戻し、このビジネスモデル、どこかで聞いたことはないだろうか?
そう。これは、ガリバーのビジネスモデルそのものなのである。
ガリバーのビジネスモデル
ガリバーインターナショナルのビジネスモデルのコアは、以下の2点だ。
・展示場での”小売り”は行わず、一般消費者からの”買い取り”を主軸にしている。
・販売チャネルをオークションに限定している。
対比のため、まずは既存の中古販売のビジネスモデルを見てみよう。
既存の中古車販売のビジネスモデルは、一般消費者への”小売り”を主軸にしている。
つまり、オークション、及び一般消費者から(安く)中古車を買い入れて、マージンを乗せ一般消費者に(高く)販売するモデルだ。
販売所のノボリに「高く買います」「安く売ります」とあるが、そんなはず無いのである。
安く買って、高く売る。
この差額で儲けているビジネスモデルだ。
ちなみに、このオークションの出品者は誰かというと、同業の中古車販売業者なんである。
客付けに失敗した商品(中古車)が、損切り商品として出品されている。
データで見ると、平均の成約率は50%との事。
売りさばけない50%の中古車は、廃棄処分や不良在庫となるのだろう。多分。
損切りという言葉から想像できるように、販売チャネルが一般消費者であるこのモデルは、在庫の「だぶつき」というリスクを常に伴う。
故に、大きなマージンを上乗せし、1台あたりの利益率を大きく設定する必要があり、それがこのビジネスモデルの特徴となっている。
1台売れれば大儲け!
如何にホームランを打つ回数を増やすかの戦いなのである。
一方、ガリバーのビジネスモデルは、一般消費者からの”買い取り”を主軸に置いている。
そのため、仕入れ先は一般消費者のみ。オークション等の別チャネルは使用しない。
余談だが、同様に買い取りを主軸としている有名なモデルケースがある。
それは、古本買い取りのブックオフである。
こちらのビジネス・モデルの詳細は、また別の機会に譲る。
ガリバーに話を戻す。
ガリバーは一般消費者への販売は基本的に行わない。
販売チャネルはオークションに限定している。
オークションへの出品の場合、大きなマージンは乗せられないが、不良在庫のリスクが極めて低く抑える事ができる。
何故か?
それは、過去のオークションの統計データから、確実に売れるであろう買い取り価格の算出ができるからである。
(中古車オークションの価格変動は速度が早く、ガリバーは週に2回のペースでデータベースを更新している)
販売先をオークションに限定したことで、客付けを行う必要が無くなり、在庫の回転率が非常に良くなる。
当然ながら、販売の為の展示場も不要である為、施設費、広告宣伝費、人件費など、既存ビジネスの大半を占めている費用を大幅に削減できる。
1台あたりの売上は薄利ではあるが、経費が少なくなる分利益率が上がってくるという寸法。
素晴らしいビジネスモデルである。
尚、ガリバーの出品車オークションの成約率は約70%と、平均値の50%を大きく上回っている。
適正な価格での出品もさることながら、見切り品ではない他社垂涎の商品を出品しているので、当然といえば当然の結果であろう。
さて、このビジネスモデルは何故他社にパクられないのか?
一説では、販売チャネルを利益率の低いオークションに限定する決断が出来ないから、と言われている。
また、様々な資源(土地や社員)を手放す必要もあるので、えいやっと転身するのは難しいのではないだろうか。
さて、ガリバーのビジネスモデルに関しては、以下の書籍が詳しい。
名著なので、1度は目を通しておいた方が良い。
DMM AUTOの戦略
DMM AUTOの手本は、明らかにガリバーの経営戦略である。
CASHを買収してからの半年間、オークションのデータを蓄積することに腐心していたに違いない。
とあるインタビュー記事に
DMM AUTO事業責任者の西小倉里香氏は、「具体的なデータの入手の仕方は非開示だが、年間600万台とも言われる中古車売買の価格データを独自に集計し、最適価格を計算している。ただ、本当に納得できる価格を実現するために、初年度は価格データベースをつくることに注力すべきだと考えている」と話す。
とある。
この600万台という数値が、画像オークション(会場に現物を運ばず、画像を利用するオークション)の年間契約数と一致しており、集計ソースがオークションであることを証明している。
一部のよく分かっていない人間が、値付けのノウハウや販売先に対しての不安を書き連ねているが、
自らの無知を晒しているようなものである。
もはや中古車を売るのに、店舗に行く必要すらない。
DMM AOTO は確実に伸び、ガリバーは驚異を感じるはずである。
DMM AUTO が失敗するとしたら、販売チャネルを一般消費者に広げたときであろう。
ガリバーも「ドルフィネット」という一般消費者への販売チャネルを持っている。
勘違いしてはいけないのが、「ドルフィネット」に掲載される期間は、車をオークション会場まで輸送する7~10日間のみ。
高利益が得られる販売チャネルを増やす意図ではなく、回転率を更に早める施策なのである。
これは恐ろしい施策で、このカラクリに気が付かずモデルをパクった他社は、勝手に自滅するという恐ろしいデストラップなのである。
DMM AUTO は、明らかにビジネスモデルを研究し尽くした感があるので、そのような失敗はしないであろう。
また、ガリバーは運送自動車運送事業を手掛ける「ハコボー」を吸収合併している。
一方、DMM AUTO は車の運送を外注に頼ることになると思われるが、買取店舗を持たずに済む点で、経費面ではトントンなのかとも思う。
ガリバーとDMM AUTO の今後の展開が楽しみである。
参考書籍
経営の必勝パターンを「ストーリー」という視点で説明した良書。
ビジネスモデルの根底にある「クリティカル・コア」の分析は秀逸であり、一読の価値がある。